2023.08.20up

岡潔講演録(31)


「岡潔先生と語る 」(3)- 西洋の真似はやめよ -

【20】 万世一系の皇統

 (男性)天皇制についてですけれども、現在の憲法では天皇は国民統合の象徴ということになっておりますね。

 (岡)ええ、憲法は個人主義だから天皇のわかるわけなんかないん。

 (男性)その天皇制ですけれども、私ある小学校の先生から、天皇制は今後も存続するのでしょうかという質問をされたことがあるんです。それで私、天皇制が今後続きますとも、いや続きませんとも、答えしかねるというふうに答えたんですが、先生はそれをどういうふうに考えていらっしゃるか、お聞きしたいんですけれど。

 (岡)わたしも万世一系の皇統を護持し続けることが出来るかどうかはわからないと思っています。ただ万世一系の皇統というものが断絶したら、それは最早日本民族ではないと思ってます。なんか別の名の土人になると思ってる。

 天皇は日本の国を知らしているのであって、(うしは)いでいられるのではない。古事記には領有するという言葉を「知らす」と「領ぐ」とに使い分けている。知らすと云うのは第二の心の世界のこと。領ぐと云うのは第一の心の世界のこと。ある国を領ぐと云うのは、その国土、人民を私有するという意味です。知らすと云うのは、天皇が日本の国を知らすと云うのは、人は真我だから、二つの真我は不一不二だから、日本国民の心が全部一つの心になる。

 その中心が天皇だ、これが天皇が日本の国を知らすと云うのであって、これは中国には少し政治形態は違いますが、この知らすという思想はありますが、西洋には無い。だから西洋人には天皇が決してわからない。個人主義に立脚した憲法なんかで天皇の説明出来るわけはないのです。だけど日本民族というのは、内容は日本民族的情緒です。その情緒が天皇というものを取り去れば変わってしまいます。そうすれば最早日本民族とは云えないと思います。

 天皇の問題は、わかりもしないのにいやしくも口にすべきではない厳粛な問題です。

 (男性)子供達は、天皇陛下は日常何をなさっているのか、といった素朴な質問をする訳ですけれども、今上陛下は学問として生物学をなさっておりますね。

 (岡)生物学はご趣味です。天皇陛下は民と親しむということがお好きであって、みんなと一緒に同じ喜びを喜ぶことを一番喜びとしてられる。また、個人個人について好き嫌いというものはお持ちにならない。こうあるべきです。わたしが数学を碁や将棋のようなものだと云いましたが、陛下の生物学といえどもスポーツのようなものです。あんなものを文化だなどと云って大事にしてるのは、西洋人が本質において野蛮だからです。国を知らしたいのなら、何よりも民と親しまなければならない。天皇はこれを生まれながらにして知って実践してられる。個人主義では天皇はわからんのです。個人主義を超えたところに日本の政体はある。

 真我と云うのは全体の上の個ですから、全だけでもなく、個だけでもない。それで、日本民族の一人一人はどういうのかと云えば ― これは知っている人も知らない人もありますが ― 日本民族の心は合一して一つになってしまってる。個人個人はその心から生まれて来て、またそこへ帰って行く一片(ひとひら)の心なのです。このことを吉田松陰はよく知ってたらしい。そうすると、死ぬということは古里へ帰るということ。だから死ぬ前には非常に嬉しくなるものらしい。吉田松陰は首を切られる直前に、一寸待ってくれと云って、今自分は非常に嬉しいという歌を書き残しています。これが真我というもの。この真我の世界においてしか天皇というものは無いのです。

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