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2013.10.05up

岡潔講演録(8)


「自然科学は間違っている」(2)

【7】 科学の方向性

「新潮」 昭和40年(1965)10月

 しかし、人は自然を科学するやり方を覚えたのだから、その方法によって初めに人の心というものをもっと科学しなければいけなかった。それはおもしろいことだろうと思います。人類がこのまま滅びないですんだら、随分弊害が出ましたが、自然科学によって観察し推理するということは、少し知りましたね。それを人の心に使って、そこから始めるべきで、自然に対してももっと建設のほうに目を向けるべきだと思います。

 幸い滅びずにすんだらのことですが、滅びたら、また20億年繰り返してからそれをやればよいでしょう。現在の人類進化の状態では、ここで滅びずに、この線を越えよと注文するのは無理ではないかと思いますが。しかし自然の進化を見てみますと、やり損ないやり損なっているうちに、何か能力が得られて、そこを超えるというやり方です。まだ何度も何度もやり損なわないとこれが越えられないのなら、そうするのもよいだろうと思います。

 しかしもしそんなふうなものだとすると、人が進化論だなどといって考えているものは、ほんの小さなもので、大自然は、もう一まわりスケールが大きいものかもしれませんね。私のそういう空想を打ち消す力はいまの世界では見当たりません。ともかく人類時代というものが始まれば、その時は腰をすえて、人間とはなにか、自分とはなにか、人の心の一番根柢(こんてい)はこれである、だからというところから考え直していくことです。そしてそれはおもしろいことだろうなと思います。

(※解説9)

 ここでは岡は暗にみずからの当面の研究の目標と、人類の真の科学の方向性を語っている。

 「人は自然を科学するやり方を覚えたのだから、その方法によって初めに人の心というものをもっと科学しなければいけなかった」と岡はいっていて、ここから岡は最晩年の10年を費やして、今まで誰も成しえなかった人類共通の心の構造の解明に立向かっていくのですが、それが辛うじて達成されたことは20世紀における人類史の奇跡であると、私は密かに思っているのです。

 そして、ここに「20億年」という数字が出てきますが、この数字は岡がいう日本民族がこの地球上へ渡ってきてからの「30万年」と訂正する方が良いようです。今回はスレスレのところで人類の滅亡の可能性は消え、30万年を一から繰り返す必要がなくなったのだ、と岡はいっているのです。

 しかし、これは飽くまでも人類はこれからも安泰だという意味ではありません。西洋の科学技術文明の崩壊なくして、人類の未来はあり得ないのですから。

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