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2017.11.09up

岡潔講演録(28)


「真我への目覚め」

【1】 明治維新から100年

 明治維新から100年になるというので、今年(昭和42年12月)ぐらいから、ぼつぼつ、各地で、その当時を偲ぶ催しが行われています。私が1月ほど前行った、山口市でも、「明治維新100年展」というのが開かれていました。非常によく資料が集められていて、それを見て回っているうちに、すっかり、歴史的雰囲気にひたることができたものです。

 そこを出て来て思ったことは、当時の日本人は、実によく働いた。この時に、この人達がこんなによく働いてくれなかったならば、今日の独立国日本はないに違いないということです。我々は、この人達に感謝することを忘れてはならない、そう思いました。同じ頃、やはり1月程前、朝日テレビが街頭録音をしました。「あなたは何のために生きていますか」というのです。

 おそらく、その編集ぶりからみて、真面目な考えで、このようなことを企画したのではなく、その課の人達の〝勘〟でこういう質問をすると、きっと面白い結果が得られると思ってしたことだろうと思いますが、大抵が、「あなたは何のために生きていますか」と、だしぬけに問われると、みんなちゃんとした答えができない。それで、いろいろな答えがあって面白かったんですが、ちゃんとした答えは一つもなかった。ひどいのは、「自分は性本能の満足のために生きている」などというようなものもありました。

 で、これによってみますと、今日の日本人は、自分は何のために生きているのかさえ知らないと言わなければならないと思います。同じ日本人でありながら、明治維新と今と、どうしてこんなにも大きな差があるのだろうか。

(※解説1)

 この講演が行なわれた昭和42年(1967年)というと私は17歳の時であるが、今思い出してみても終戦後も20年を過ぎて、次第に文化は爛熟していった時代である。

 当時「明治100年」ということはよく耳にした記憶がある。学生運動も激しくなり、西洋からは「エコノミック・アニマル」といわれはじめる時期であるから、このような興味本位のテレビ番組があったこともうなずけるのである。

 「当時の日本人は、実によく働いた」「同じ日本人でありながら、明治維新と今と、どうしてこんなにも大きな差があるのだろうか」と岡は冒頭疑問を呈しているが、我々大衆はそんなことには一向無関心で「アメリカに追いつけ、追い越せ」と経済成長と生活の向上にのみ躍起になっていたのである。

 ところが私は丁度その頃、高知で岡の講演を初めて聞いたのである。時期としては岡の晩年初期の思想の完成期であり、岡の警鐘乱打も絶頂期に達していたのであって、そこに岡との運命的な出会いがあったことが、私がこの「真我への目覚め」に強くひきつけられた理由でもあったのである。

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