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2016.08.29up

岡潔講演録(19)


「1971年度京都産業大学講義録第5回」

【3】 自然科学の2つの結論

 自然科学ですが、自然科学は非常に価値のある、非常に重要な2つの結果を得ています。

 その1つは、

 『1° 五感でわからないものがある』

 五感と云うのは視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚です。感覚の全部を五感と云ってますね。この五感でわからないものがある、そういうことを理性でわかるような形で述べたことです。つまり五感でわからないものを理性の範囲内に発見した。これは不安定な素粒子の発見です。これが非常に大きい。

 東洋でも、東洋の大先達は、いずれも五感でわからないものがある、そう云ってますが、そういうものを知るには、凡人には働かない知力を働かさなきゃわからない。理性と云うのは凡人に働く知力です。理性の範囲内において、そういうものを指摘してはいない。だから非常にこの発見は大きいですね。人類にとってまことに有意義である。

 もう1つしてます。

 『2° 生命現象』

 五感でわかるものだけをいくら丁寧に調べていっても、いつまで経っても、生命現象はひとつもわかってこないと云うことを、やってみせることによって実証したことです。

 あんなに丁寧に自然を科学したのに、人はなぜ見えるのか、なぜ立とうと思えば立てるのか、すなわち人の知覚運動と云う生命現象のいろはが、全然説明がつかない。だから五感でわかるものだけをいくら丁寧に、いくら時間をかけて調べても、生命現象ということはひとつもわかって来ないということ、これは実際やってみせる以外に証明のしようがないでしょう。非常に簡単に、完全に実証してみせた。

 この2つのことは非常に大きな結果であって、人類にとって大変有意義です。この2つの結果によって、人類の生活に一大革命が起こるでしょう。全く生き方を変えなきゃいけない。

 それ程の大きな結果ですが、そのことに西洋人は全然気付いていない。自然科学は西洋人がやったのです。従ってこの結果も西洋人が発見したのですが、こういうことを発見したということそれ自体に気付いていない。この調べ方でいくら調べても生命現象はわかってこないと云う結果ですね。特にこれに気付かない。

 不安定な素粒子の発見も、その本当の意義がわからない。しかしわたし達はわかりますね。わかるから直ぐにこれに基づいて一切を革命しなきゃいけない。

(※解説3)

 今までの1969年の解説では、「自然科学は間違っている」を詳細に説いてきた岡であるが、この1971年ではその批判を更に煮詰めて、このような2つの結論を導き出したのである。

 つまり、「五感でわからないものがある」ことを素粒子論によって実証したはずの自然科学は、こと「生命現象」に関しては全くわかっていないという事実である。

 よく「生命科学」とか「生命工学」とかいう分野があるが、それらは一体なんであろうか。それは「生命現象」が残した物理的な「痕跡」を研究したものであって、「生命現象」それ自体ではない。

 いわばそれは丸で砂浜を歩いた人の「足跡」を調べているようなもので、砂浜を歩いた人自体を調べているのではないのである。

 そして岡は「これに基づいて一切を革命しなきゃいけない」といっているが、それは五感でわかる「物質」にのみ頼ってきた自然科学は、五感ではわからない「心」や「直観」の方向へ梶を切らなければならない時点に、今やきているということである。

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